取材日:令和2年2月4日(火)
取材者:埴原有希士
今回のインタビューは、女優業に精力的に取り組む一方で、舞踊家、着付師としても活躍する澁澤真美さんにお話をお伺いしました。
非常に楽しいお話がきけましたし、普段接する事の無い、芸能の業界の雰囲気も知る事が出来る、そんなインタビューになりました。
少々冷え込みの厳しいこの日に、下北沢で澁澤さんと待ち合わせをしました。
学生の街といった雰囲気で、若い男女が待ち合わせを行う姿がよく見受けられました。
活気のある楽しい街です。インタビューへの期待で、待ち合わせ時間もワクワクしています。
早速合流し、近くの喫茶店でインタビュー開始です。
埴原:ご無沙汰しております。本日はよろしくお願いします。
澁澤さん:はい。こちらこそ、よろしくお願いします。
埴原:ちょっとお久しぶりですが、お変わりなくお元気そうですね。
澁澤さん:埴原さんもお元気そうで。ジャケット素敵ですね。
埴原:ありがとうございます(笑)
本日は渋澤さんの、舞踊家、着付師としての側面に注目して、お話をお伺いしたいと考えています。不勉強なもので、特に日本舞踊については全く知識がありません。色々、初歩的な質問からになりますが、よろしくお願いします。
澁澤さん:もちろん喜んで。まだまだ勉強中の身ですが、お役に立てるなら幸いです。
埴原:まずは日本舞踊(二ホンブヨウ)についてお伺いします。日本舞踊と聞いてもピンとこない人も多い気がします。多分、路上で無作為にアンケートしたら、詳しく知っているという人は少数ではないでしょうか。
そこで、まず特徴を教えてください。
澁澤さん:本当に簡単に説明すると、和服を着て、扇子、花、傘などを使って踊ります。
日舞は、懐かしさみたいなものや、日本人のDNAに強く訴えかけてくるような感じがします。とっても魅力な芸事なんですよ。
埴原:なるほど。なんとなく分かる気がします。
実際に、自分の目で見たことが無くても、映像などでは目にする事もありますし、何となくですが、おっしゃる通り懐かしさみたいなものは感じますね。
澁澤さん:それに何といっても、仕草や立ち居振る舞いが美しくなります。
最初はむしろ着物は似合わないと言われていました。日舞を始めて5、6年経つと、逆に普段から、洋服を着てても着物が似合いそうと言われるようになりました。仕草が色っぽいとか、凛としているとか言ってもらえるようになりました(笑)
埴原:着物が似合わないと言われていたなんてすごく意外です。今の澁澤さんのイメージで言うと、本当に和服が似合う女優さんと言うイメージです。
澁澤さん:それと、日舞は軸がしっかりして体幹が鍛えられます。なので、いい運動にもなって体型維持にも効果的だと思います。
埴原:やはり日本人の動きは着物ありきですから、衣服が乱れないようにだとか、日本人的な美しい動きが身につきますよね。
日常でも動きは出ますよね。私も、洋服を着ているのに、必要ないのに袖をさばく動きとかしてしまいます。
澁澤さん:ほんとですか。それはないです(笑)
埴原:共感してもらえると思いました(笑)
私の場合、仕事着が和服なので、着ている時間が本当に長いんですよ。だからかなと思います。
澁澤さん:毎日に近いとそうなのかしら。面白いですね。
埴原:そう言えば話が前後してしまいますが、日舞を始めたきっかけは何でしょうか。
澁澤さん:きっかけは、女優業ですね。
本当は日舞は全く興味なかったんですよ。ある時、時代劇に出たいなと思う事がありまして、今ではない、いろんな時代の人物の演技をしてみたいという考えでした。ですから、時代劇自体も特別好きだというわけではありませんでした。
時代劇に出るのに、何が必要かなと考えた時に、やはり所作が必要だと気付き、着物に着慣れる事も踏まえて日本舞踊を選びました。
古典の流派、踊りを基礎とした新舞踊というものです。
埴原:なるほど。では興味も知識もゼロで飛び込んだら、思いのほかハマったという事ですね。
澁澤さん:そうなんです。負けず嫌いな性格もあって(笑)
出来ないと悔しいみたいな。
埴原:そうした時に、今の流派が最も飛び込みやすかったわけですね。
澁澤さん:そうなんです。そこは、役者をされてる方も数人いて入りやすかったです。踊りも歌謡曲や演歌、ポップスなどの音楽で踊るもので。
埴原:そういう意味では、現代の方にも開けた流派ですね。そういう所はすごく重要ですよね。
それがないと衰退してしまうと思います。
澁澤さん:私もそう思います。目で見て、実際に触れてもらう機会は多いほうが良いと思います。
埴原:もう一つ、和の立場で言うと、着付師という一面もお持ちですね。
着付けを始められたきっかけは何ですか。
澁澤さん:日本舞踊をやるに当たって着付けは覚えるんですが、踊りですから、早替えがあったり、多少ざっくり着ても問題が無いと言えば無いんです。
でも、せっかく和服を着るからには、しっかりと着れるほうが良いなと思いまして。そろそろちゃんと学んだ方が良いなと思ってたときに縁あって、今学ばせていただいている京都の先生に出会いました。人に、着物の着方を教えてあげるパターンと、人に着せてあげるパターンの2つがあるんですが、私は後者の着せてあげる方です。
埴原:海外向けにイベントなどされていますもんね。海外の方は着物を着ると喜びますか。
澁澤さん:とてもテンションが高い方が多いので、リアクションも良いし、とっても喜ばれます。
埴原:それは何よりですね。
和装は、今や礼装に準拠していますので、少々堅苦しくなってしまっています。
京都や川越など、一部の地区では着物で街歩きのサービスを行ってますが、例えば普段着として着物を着る方は少ないし、やっぱりハードルの高さがあるみたいですね。特に女性の側に顕著な気がします。
江戸時代の写真資料で、庶民のお母さんなんか見ると、胸元も大きく開けて、本当にゆったり着ていますよね。私服だし普段着なんだから当然だと思います。
そこまで崩さないまでも、もっと普段使いの和服を着ても良いと思います。
澁澤さん:そうですよね。
埴原:私も稽古着として和服を着る際には、肌襦袢なんて着ませんしね。普通に肌着のシャツです。これに袴に羽織で歩いてもへっちゃらです。でも女性の場合、崩してきていると、お直しおばさんとか出てきますよね(笑)
澁澤さん:そうですね(笑)
目に付くのも分からなくも無いんですけど、うるさくなり過ぎですよね。
埴原:例えば冠婚葬祭等、きちっとした場に出るなら分かります。単純な話、TPOとして考えればきちんとした着こなしが当然ですからね。
ただ、近所に買い物行くのに、礼装の人はいませんよね。また、近所に買い物に行くのに和装でダメな理由も無いですからね。
私も家の近所では和服で歩く場合もあります。
私は何となく時代がかった和装なので、少し特殊性があるんですが。
澁澤さん:時代衣装の知り合いもいるんですが、各時代ごとの着こなしなんかは、そういった方がすごく詳しいですね。
埴原:あと男の場合は、角帯をきちっと締めていれば、女性と比べて、後は大した見どころもありませんしね(笑)
澁澤さん:確かにそうですね(笑)
女性は色々複雑だから。
埴原:私の場合は、普段着としての和装を広めたいなと考えています。
特に男性はハードルが低いと思います。
澁澤さん:私の周りにも普段着にしている友人がいますよ。パーカーやタートルネックに合わせてみたり。
埴原:良いですねよ。常々バランスの悪さを感じているのが、和装の王道はあると思うのですが、多少崩す事に問題はないと思います。
例えば長着と襦袢はセットでしょうが、夏の暑い日は長着だけさらっと着ても良いじゃないですか。江戸時代とは気候も違うわけだし。例えば洋服で考えると分かりやすいかな。夏の暑い日に、肌着を着ずにシャツをそのまま着る場合もあるじゃないですか。それと同じだよと。
澁澤さん:そうですよね。私もそう思います。
埴原:和服の着方に難癖をつけてくる人がいたら、逆に「あなたの洋服の着方、間違ってますよ」と言ってやれば良いんじゃないかなと。
澁澤さん:確かに(笑)
埴原:私服の着こなしなんて自由ですよね。長着の上に襦袢を着ていたらおかしいけど、最低限基本を押さえていたら、別に構わないと思うんですよね。
澁澤さん:着物パトロールですね(笑)
私の師匠は、まさにそういうのを良しとしていなくて、この間50周年パーティーに参加した時に、一流こそ新しいものを取り入れているなと感じました。
写真があるんですけど、、(写真を見せていただく)
好きに着たらいいのよって感じです。
先生が良くおっしゃるのが、基本を知ってて崩すのと、知らないで崩れているのは全く意味が違うと。
一流こそ頭が柔らかいなと感じています。
埴原:それが本来の意味での教養って感じですよね。
一流の人は生業としていますから、その辺のバランス感覚が素晴らしいんでしょうね。
着物について、動きが制約されるし、不自由な衣服だなんて真顔で言ってしまう人もいますが、良い大人として、好き勝手に動き回るんではなく、和装が崩れないような優雅で品のある動きが出来て当然だよと、そんな戒めと言うか、教えをくれるのが和装だと思っています。
澁澤さん:なるほど。そうですねよね。
埴原:ちなみに和装に関しての広め方等は、何か展望はありますか。
現在外国の方に広められている活動も目立ちますが。
澁澤さん:和.ppinessという、志が同じ3名で立ち上げた団体で、基本的には海外の方を対象に広める活動はしています。
それももちろんですが、今少しずつCMや映画の現場での着付けの仕事が増えています。
有名不動産会社CMで、俳優さんの着付けをしたりしました。
スタイリストさんからのご依頼で、現場経験もあって、比較的若くて、着付けが出来る人を探していたようですが、意外とそういう人って少ないみたいですね。
面識のない方でしたが、縁あってSNSから通じて仕事につながりました。
正直、大手の広告代理店も入っていたので、そんな事もあるんだなとびっくりしました。運だけは良いようです(笑)
ですから、こちらの仕事も広げていきたいですね。
埴原:そうなんですね。貴重な人材ですね!
澁澤さん:もっと精進します(笑)
埴原:私も時代劇を観ていると、服装や所作から、しっかりと考証して再現しているなとか、その逆に感じるものもありで面白いですね。
澁澤さん:今後は、現場で今日は着付けで、今日は役者で、なんて色々出来る人材を目指していきたいです。勝手に考えたネーミングなんですが「和装スタイリストダンサーアクトレス」のプロフェッショナルになりたいなと(笑)
埴原:おー、長いですね(笑)
現場の第一人者ですね。
澁澤さん:日本舞踊に関わった事をきっかけに、最近では和の文化とすごく身近になりましたね。ある歌手さんのバックで踊らせて頂いたことがあるんですけど、その会の司会が落語家さんで、実は声を掛けられて高座を踏んだことがあるんですよ(笑)
そんな経歴もあったりします。
埴原:へー!知らなかった。面白いです。
そういえば女性の落語家さんは少ないですよね。何か理由はあるんですか。
澁澤さん:以前、前座さんにお会いしたことがあるんですが、師匠の元に365日通いつめで仕事をしているというお話を聞いたことがあります。だから、しんどいというのはあるのではないですかね。
あとは、演じるものも男性ものが多いから、そういうのもあるのかな、と。
埴原:なるほど。確かに男性同士の掛け合いなんて、説得力と言う意味では。
新しく女性の同士の掛け合いの演目なんて作ったら良いんじゃないですかね。
澁澤さん:そうですね。そういった分野の創作落語がもっと増えていったら面白いですね。
埴原:恥ずかしながら、ちゃんと落語を見たことがほとんどないので。
澁澤さん:面白いですよ、寄席に行くと!
空間が、もう時代が違うみたいな。
埴原:そうすると、落語も腕に覚えありですね。
澁澤さん:実はもうこの話は封印しようかなと(笑)
高座を2回、大阪と浅草で。こんな私が。
師匠の下、前座でした。いっぱいいっぱいで。お客さんは皆さん暖かいので、頑張ってるな、と見てくれていたと思います(笑)
ちなみに落語は芝居に通じるものがあるので、すごく良い物だと思っています。
埴原:芝居には確かに役立ちそうですね。
しかし落語の話は全く知りませんでした。もっと前面に押し出したほうが良いです。
澁澤さん:そんなことしたら、やってくれって言われちゃうじゃないですか(笑)
もう封印です。
埴原:ところで澁澤さんと言えば、和文化教養人でもありますが、女優と言う側面もやはり軸の一つだと思います。取って付けたようで恐縮ですが、そちらのお話も。
女優を志したきっかけは何だったんですか。
澁澤さん:女優業には、最初は漠然としたあこがれだけだったんです。まさか自分になれるはずもないって、自分自身への決めつけもあったし。
でもある時になって、挑戦するなら今しかない。後悔はしたくないって、なんの準備も無しに急に飛び込んだんです。
埴原:すごい行動派ですね!
いくつぐらいのお話ですか。
澁澤さん:24歳の時です。子役から業界にいる人もいますし、どちらかというと遅いスタートでした。
それまでは演劇をやっていたわけでもないし、コネも無いしで、本当にゼロからのスタートでした。
埴原:それはすごい。私なら絶対に飛び込みません。
澁澤さん:この業界やはり変わり者が多いです。
私もその一人ですね(笑)
埴原:普通ではない、と言う所が大事なんでしょうね。
澁澤さん:変わった経験や特殊な経験をしている人が多いですね。
変わった経験と言えば、一昨年にバンクーバーに留学を、短期間ですがしていたことがあります。
その時に、着物2着持って行ったんです。
ホームステイだったんですが、日本文化に興味津々なタイ人の子がいて、着せてあげたら大喜びで。
現地の方々も、着物が着たいと言う方も多くて、皆さんすごく喜んでくれて。
凄く良い経験でした。やっぱり広める活動がしたいなと強く思いました。
埴原:それは凄くうれしいお話ですね。
今日は色んな興味深いお話が聞けました。いつまでも話題は尽きないですが、共に和文化教養人として、協力して活動していきましょう。落語今度ぜひご一緒してください。
本日も、ありがとうございました。
澁澤さん:こちらこそよろしくお願いします。
楽しかったです。ありがとうございました。
本日のインタビューでは、日舞と和装に関わる和文化教養人としての、興味深いお話が伺えました。
それだけではなく、和に精通した女優さんとしての優雅さの秘訣を知る事も出来たように思います。
今後、和文化を広める仲間として、また色々と関わっていただきたいなと思います。
とても有意義で楽しいインタビューでした。