取材日:令和2年1月27日(月)

取材者:埴原有希士

 

 記念すべきインタビュー第一弾は、池袋に店舗を構える刀剣商の杉田さんです。

 

 杉田さんのお店では、私の教える古武術の生徒が刀を購入させていただくなど、以前より大変お世話になっておりました。

 

 今回は、そんな繋がりもあり、インタビューを快く引き受けてくださいり、とても楽しいひと時となりました。


 珍しく冷え込んだ本日、池袋駅北口から目指した場所は、刀剣商を営む刀剣杉田さんです。

 

 日本人の精神性を理解するために、切っても切れないのが日本刀。その日本刀を扱うのが刀剣商です。

 

 私も、仕事柄刀剣を扱うので、最初のインタビューは刀に関係する人と決めておりました。今回、縁あってインタビューをご快諾頂いたので、とても興味深いお話が聞けるのではと楽しみにしております。

 

 店内には所狭しと刀剣が飾られています。美術館などでは目にする事の出来ない密度に、初めての来訪者は圧倒される事間違いなしです。

 

 もちろんすべて真剣です。また、日本刀だけではなく、刀装具や槍、はたまた甲冑まで、日本古来の武具に関連する商品を閲覧・購入する事が出来、マニアにはたまらない品揃えです。

 

埴原:改めて趣旨のご説明です。

当協会では和文化と教養の発信のため、特に和に関係する教養人の方にインタビューをさせて頂いております。

本日はよろしくお願いします。

 

杉田さん:よろしくお願いします。

 

埴原:まずは、刀剣商を始められたきっかけを教えてください。

 

杉田さん:きっかけは、もともと日本刀が子供のころから好きだったという理由があります。

ただ、最初は漠然と好きだったというだけですね。

実査に40過ぎてから初めて刀剣を所持して、ますますその魅力に惹かれていきました。

 

埴原:そうなんですね。ではその前までは、生業として刀剣商をされるお考えはなかったんですか。

 

杉田さん:はい、全くありませんでした。

 

埴原:という事は、それまでは異なるお仕事をされていたという事でしょうか。

 

杉田さん:はい、この店を始めたのが、平成10年からなんです。今から20数年前ですね。

それまでと言うよりも、今でも続けていますが、システム管理工業株式会社という会社を経営していまして、その傍ら趣味で日本刀を集めていたような形です。

 

埴原:それは素敵な趣味ですね。では趣味が高じて刀剣商になられたんですね。

 

杉田さん:まさにそうですね。

なぜこの仕事を始めようかと思ったのかと言うと、平成10年までの間に、180本ほどの刀剣を集めて事がありました。しかしそれでももっともっと欲しいという気持ちがあり、ただ、財力にも限りはありますし、際限なく増えてもと思い、商売にしようと考えました。

そうすれば一石二鳥になるのではと、そんな幻想を抱いて始めました(笑)

 

埴原:本当に趣味と実益を兼ねてというスタートですね。

そうすると、最初は畑違いの仕事に飛び込む事になったわけですが、最初から好調な滑り出しだったのか、それとも色々とご苦労があったのでしょうか。

 

杉田さん:もう苦労だらけでしたね。いわゆる刀剣商としては当然アマチュアですから、目が利かない、勉強不足で。それでも不思議なもので、プロになれちゃっているわけですが。

それでも180本ほどあったうち、目利きの人に精査してもらったら、半分は偽物(ギブツ)だったんですね。

ですからしょっぱなから躓きました(笑)

 

埴原:なるほど。しかし日本刀は美術的価値の判別が非常に難しいものでもあると思います。ですから半分思った通りの刀であったならば、的中率は高いように感じてしまいます。

 

杉田さん:ただ最初は闇雲に収集していましたから、勉強が疎かになっていたんですね。ですからスタートとしてはそこから猛勉強しました。

 

埴原:そうなんですね。私が初めてこちらを訪問させて頂いたのはそう昔の話ではありませんので、今の杉田さんしか知りません。仕入れの刀の確かさや、豊富な知識や目利きのイメージが強いので、そんな時代もあったんだなと驚きます。

現在幅広い価格帯の刀剣を扱っているイメージがありますが、美術刀剣という世界では、非常に高額な商品のみを扱うお店もあると思います。

我々刀を実際に使用する立場で見ると、求めやすい価格で確かに質の刀を取り扱っていただいているのは大変助かります。全国を見れば、そういうお店もあると思いますが、個人的には池袋と言う立地も最高でした。私の道場は新宿にあるので、個人的にはとても助かっております。幅広い価格の刀を扱うのはどんなお考えからですか。

 

杉田さん:不思議なもので、日本刀を楽しむというのは値段ではないんです。

例えば10万くらいでもドキドキするようなものはあります。

ですからやっぱり、一本一本違うものですから、本物であれば値段に関わらず、いい刀は沢山あります。これは当然広めてあげなければもったいないですから。

 

埴原:なるほど。そのお話からも、とても刀剣が好きなのが伝わってきます。刀剣商でも、ビジネスライクに商売を行っている方もいると思います。美術刀剣として、余裕がある方が観賞用に購入される場合はともかく、実際に稽古に使用する身からすると、100万、200万の刀はいろんな意味で使いにくいです。

その点で杉田さんのお店に助けられています。そういった目線で興味を持つ方も、東京は多いと思います。その点もアピールしたいです。

 

杉田さん:当店は初心の方でも、もちろん大歓迎です。ぜひ気軽にお越しください。

 

埴原:ちなみに刀剣商としてのこだわりはありますか。

 

杉田さん:特にないですが、刀剣商の仲間が沢山いるんですが、根っからの刀剣商の方々の考え方は若干馴染めないところがあります。

 

埴原:我が道を行くですね。

 

杉田さん:良い悪いは別として、組合の方がの動きを見ていると、少し入り込みにくいかな(笑)

 

埴原:刀剣は趣味性の高い商品ですから、そんなに数も出ないですよね。他の小売りと比べて、シビアに商売されている方は多いかなと思います。その点杉田さんは、ある意味で打ち解けやすい雰囲気を勝手に感じました。

商売っ気と趣味っ気のバランスが素晴らしいですね。

 

杉田さん:ありがとうございます。

 

埴原:刀剣以外にも面頬や甲冑も置かれていますが、杉田さんがお好きなのは日本刀のみではないんですね。

 

杉田さん:日本刀もですが、甲冑が好きで、結構集めているんです。35領くらいありますが、飾り切れないので別に保管しています。

 

埴原:そんなにあるんですね!

 

杉田さん:たまに見せてくれとおっしゃるお客さんがいるので、お見せしています。

 

埴原:先日精巧なレプリカ品も置かれていましたね。所見ではとても保存状態が良い甲冑なのかなと思いました。綺麗すぎるなとも。

 

杉田さん:あれはもう売れていきました。昔のものと比べて大幅に価格が低いですから、やっぱり好む人は多いですね。甲冑は扱いがとても難しいものです。部品の劣化などもありますし、出来るだけ状態の良い物だけ買うようにしています。

出し入れの際に痛むので、飾りっぱなしなら良いですが。

甲冑は結構海外にも出ていっていますね。

 

埴原:現在は日本通の外国人も多いですね。今は日本人の方が、それらに疎い方が増えて気がします。外国人のお客さんも増えていますか。

 

杉田さん:やはり外国のお客さんも増えていますね。ただ圧倒的に日本人の方が多いです。若い女性が関心を持ってきているので、実は見学者も多いんですよ。

日本の武道に関心を持つ方も増えている気がします。とても良い傾向だと思います。

 

埴原:そうですね。私も武術を教えながら同じような印象を抱いていました。うちの集団クラスも女性は多いです。女性の方がまじめな気がします(笑)

一度始めた習い事を継続しやすいのは女性かなと。女性が元気な時代ですね。

ゲームが火付け役だったようですね。入り口はどうあれ、嬉しい話です。

 

杉田さん:外人の方には底堅い人気があります。

うちは20年近く前から、オランダで展示会に参加するなどしています。ちょうど2000年の年に日蘭交流400周年というイベントをオランダ政府が開催しました。お声がけいただき、日本刀100振りもって参加しました。

 

埴原:100振りとは豪勢ですね。

 

杉田さん:はい、それからオランダとは付き合いが始まり、定期的に展示会を開催しております。

 

埴原:オランダの方も日本通の方がいらっしゃるんですね。

 

杉田さん:そうなんです。日本刀を研究する「オランダ刀剣会」という会があります。そこの会長さんと親しくさせて頂ております。なのでイベントの時は、出来るだけ協力しております。

日本関係の展示をやると、来場者がぐっと増えるらしいです。甲冑や日本刀の展示会は人気です。

 

 

 埴原:オランダは知りませんでした。フランスは前回協力いただいたフランス24(国営放送)の取材の件もありましたが、フランスの方は日本と通じる精神性を持っていると感じます。

オランダも似たような感じですか。

 

杉田さん:そうなんです。ですからオランダでイベントを開催すれば、ベルギーや、ドイツやフランスからも結構人が来ます。

あとイギリス人も多いですね。

 

埴原:確かにイギリスも歴史を重んじる国ですね。

 

杉田さん:そうです。うちの海外のお客さんで最も多いのがイギリスの方です。

イギリスやドイツの方が、日本刀を結構購入してくれます。

ドイツでは居合も盛んです。うちに定期的に来られるお客さんは、ドイツで北辰一刀流をやられています。

 

埴原:それは凄い!海外とのお付き合いも多いんですね。

 

杉田さん:はい、多いです。

 

 埴原:当協会の活動趣旨の一つに、これから日本を引っ張っていく若い日本人に、日本の文化や良さを理解してもらいたいというものがあります。

日本人が何なのかを外国の方に聞かれてしどろもどろでは、国際人としても恥ずかしいので。

その為、うちの道場では日本刀に直に触れて、斬撃の訓練を行う事を推奨しています。

今の20代、30代は何百万もする刀をポンとは買えないので、杉田さんの品ぞろえは助かります。

 

杉田さん:うちも月に20~30振りでますが、やはり圧倒的に売れていくのが100万円以下の刀です。100万円を超えるのは月に数振り程度ですね。

初めて刀を手にする方は、圧倒的に50万円以下のものです。ただ皆さんとても喜んで帰られますよ!

 

埴原:こちらで刀を購入させて頂いたうちの生徒も、皆とても喜んでいます。中には毎日手にして眺めている人もいますよ。

刀は高いから良いわけではなく、出会い次第ですよね。私も楽しいです。

ちなみに様々な刀装具も扱っていますね。何か変わり種とかはありますか。

 

 杉田さん:そうですね。古刀具は苦手なんです(笑)

まあ難しい。例えば汚いものでも、美しく見える人もいる。ですから歳を重ねて、古刀具を分かった人たちは羨ましく尊敬するぐらいです。

残念ながら、私は勉強不足で。金工物の優れた作品には魅力を感じますが、古い真っ黒な目貫なんて良さが今一つ分からず。古刀具の世界は難しいなと思います。

 

埴原:まさしく本来の意味での教養と言った感じですね。物を知らない人が見ればゴミに見えてしまうものでも、本来の価値を見抜く目は、一朝一夕には難しいですね。

 

杉田さん:まさしくですね。ですがそういった目利きの方は減りましたね。そのおかげで買いやすくなりました。真っ黒で汚い目貫が30万や50万なんかで、何がいいんだろうと。それが今では10万円以下など安くなって、この値段なら買っておくかなと手に入れたりもします。

ただ、本来の価値は見いだせていないです。難しい世界です。うちは古刀具は苦手ですね。

 

埴原:ですが、刀の仕入れは本当に確かですね。よく拝見する価格帯の刀も、使う側の考えで拝見しています。重心位置や身幅や重ねや樋の有る無しとか。出していただく刀は、すべて良い刀なので、見立てもすごく楽なんです。中には良く分からない刀を仕入れているところもありますよね。

 

杉田さん:偽物が結構あるんですよね。偽物は武士道の世界に有ってはいけないものだと思うんですよ。我々刀剣商が、本当に偽物を嫌って排除しないといけない。なかなか皆が足並みそろうもの難しい。この辺は恥ずかしい話で、扱う物が物ですから、扱う我々の精神性が重要です。ただ金儲けでは。確かに偽物は儲かるんです。ですが、偽物は排除する動きが出てこなければいけないんです。なかなか言えない部分もあるんですが。

 

埴原:商売に走れば、目先の利益に囚われてしまいますよね。それが長期的に見れば自分の首の締めるとも知らずに。その点で商売っ気が強すぎない杉田さんは信頼できます。

 

杉田さん:この業界実は未成熟で、もっと研究が進まないといけない。

うちは刀の年代測定を試してみたり。鎌倉時代の刀と称していても、どうにもそう見えないものがあります。年代測定を掛けたら、やっぱり江戸時代だった。今はそこまで分かります。

鑑定の方法を研究して、皆でもっと質を高められないかなと常々思っています。

 

埴原:一つには骨とう品扱いで、買う側の目利きが自己責任と言う感じがありますよね。本物かどうかは買う側の目利き次第。その方が商売しやすいと考えている人も多いですよね。

 

杉田さん:そうですね。でもやっぱり日本刀を扱うんだったら、その精神から扱うにふさわしい人格でないといけないですね。儲かればいいは、昔の話だけであって欲しい。

昭和五十年代にすごかったんですよ。

私はその時代を知らないんですが、1年間で十倍になったりすることもあった。

その頃の鑑定書はでたらめなものも結構あります。虎徹なんて書いて何千万もした刀が、それを出した際に、何でこんな刀買ったのという位。本当は扱っちゃいけない人たちが扱っていたんだなと。

 

埴原:なんだか不動産の話にも似ていますね。昔規定が甘かった時代に、徒歩5分が車で15分なんてこともあったらしいですし。

 

杉田さん:なるほど。刀剣の世界も、その時代を未だに引きずっている方がいるんです。なので馴染めないのかなと。うちは平成10年からなので、その時代は全く知らないので。

 

埴原:だからこそ。刀剣という特殊性の高い買い物は、信頼の出来るお店と長く付き合うのが本当に大事ですね。相性や品ぞろえもあるでしょうし。

これから始めて刀剣に触れる方には、刀剣杉田さんはうってつけのお店だと考えています。

ちなみにうちの協会では現代刀匠の方々も特集したいと考えています。美術刀剣として考えた時に、美術品である以上古いものが好まれます。現代の刀鍛冶は、一部を除いて苦戦されている方も多いと思います。包丁を打って生計を立てたり、苦しい人も多い。現代刀匠の方々に対する想いなどはありますか。

 

杉田さん:私は幸い、現代刀匠で日本一だと思っている大野義光さんと親交があります。うちによく来ていただけるので、お話を伺う機会が多いんです。他の刀鍛冶と比べても、独特のお考えも持っています。私は、絶対に人間国宝にならなければいけない人だと思っています。技術を後輩に伝えて欲しい。

とっころが大野さん自体は人間国宝に興味がない(笑)人間国宝になるためのロビー活動みたいな事はしない人なんです。ですからは外されてしまっていますが、技術は日本一です。刀を見れば、大野さんの作品は、茎なんて見なくてもすぐに分かりますよ。

 

埴原:大野さんの作にはどのような特徴があるのですか。

 

杉田さん:重花丁子字という刃文にあります。これが大野さんが個展を開いた際の資料です。(資料を見せていただく)大体500~600万くらいするんですが、山鳥毛っていうのを写しているんですよ。

 

埴原:とても素晴らしいですね!

 

杉田さん:現代刀匠で、人間国宝を除いてそれだけの値が付くのは大野さんくらいですよ。ただ人間国宝よりもうまいですよ。だから、大野さんの刀鍛冶としてのお話はとってもためになるんです。

見た瞬間に分かりますよ。時々大野さんの偽物が出回るんですが、簡単に見破れますね。みんな見たら分かりますよ。

ちなみに人間国宝になりたい現代刀匠はいっぱいいるんですよ。そういう人ほど派手に動き回ってアピールしますが、技術は大野さんが上。だから大野さんの足を引っ張る人が結構いるんですよ。

文化庁がもっと目を開けてくれれば、誰が人間国宝に相応しいかすぐに分かるはずなんですけどね。

 

埴原:なるほど。なんとなく分かる話ですね(笑)

ですがそれだけの実力をお持ちだから、足を引っ張る手合いもいるんでしょうね。

 

杉田さん:刀鍛冶の意見を知りたい場合は、大野さんを紹介しますので、ぜひ話してみていただきたいなと思います。この人は本当に尊敬できる刀鍛冶です。

 

埴原:ぜひよろしくお願いします!

実は刀匠の方とのお付き合いは乏しいので。インタビューに関しては、交流のある教養人の方や、知名度が高い方だけではなく、若くして和の業界で頑張っている方もピックアップしたいと考えています。

現代においては手軽だったりインスタントな知識や技術が好まれる風潮があると思います。石の上にも三年的な苦労を避けようとする風潮もありますよね。

和の文化教養に関わる若者は本当に貴重なのに、皆さん大部分が苦戦していると思います。

 

杉田さん:そうですね。今は刀鍛冶になっても生活できないですからね(笑)

それでも飛び込むっていうのは、よっぽど好きなんだろうなと思っています。

 

埴原:そういう方々が育たないと、絶対に先細りで衰退してしまいます。日本は昔からの刀剣の現存数とても多い国だと聞いています。とはいえ、物である以上は、その数は確実に減っていくと思います。ですから、新しく良い刀を打ち上げる方がいなければ、衰退してしまいます。ですから、若い刀匠も応援したいですね。

 

杉田さん:本当に、この文化が滅びてしまうかもしれないという、ちらっとそんな思いがよぎる時があります。

私は、最近たまたま政治家の方と話す機会があり、日本刀はこのままではいけないと思い。お話しました。

何人かの政治家で、現状を憂う方々が日本刀の勉強会を最近始めているらしいんです。

ぜひ文化庁の中に目利きを育てて欲しいとお願いしました。現状は文化庁には目利きと言える人はいらっしゃらないんです。例えば国立博物館の学芸員でも、日本刀に詳しくない人が扱う場合もあるようです。

現状は協会で刀剣の審査を行っていますが、間違っている場合もあります。また学芸員がサラリーマンになってしまっているように感じます。昔は目利きがいた。しかし目利きがいると、不正も出てきたりします。

だから監督官庁である文化庁が、しっかりと役目を果たして欲しいですね。

文化庁に目利きが育てば、きちんと指導できるようになります。

今は権威団体の意見が通りやすいですね。

 

埴原:突っ込んだお話で面白いです(笑)

しかし由々しき事態ですね。民間団体はしがらみなんかも出てきますから、監督する文化庁の役割は重要ですね。

今後、日本の方々が刀剣への興味が薄れていってしまっていくと、若い刀匠の方々は更に苦しくなってしまいますよね。

私は美術刀剣という見方だけではなく、稽古に使う刀を、相応の金額で打つ刀鍛冶というポジションで打ち出すのも、新たな活路を見いだせるのかなと考えてもいます。

うちの生徒の一人が、実際に現代刀匠の方に刀を打ってもらっています。もちろん安い買い物ではないですが。今は良いものにはお金を払う人も増えてきています。

ですが知らなければ買いたいとも思いませんよね。その為の情報発信の意味もあると思います。刀剣商で買うばかりでもなく、新しく打ってもらうという手もあるんだと。

杉田さんの前でするお話でもないですが(笑)

 

杉田さん:まさしくその通りだと思います。刀鍛冶を本当にもっと育てないといけない。私がいかんなと思っているのは、二重価格になってしまっている事です。

刀匠に刀を注文すると100万前後が普通です。刀匠が生活していくためには、それぐらい貰わないと生活できないはずです。

ところがそれが一回市場に出ると、値段が半分以下になってしまう。特に居合刀が40~50万で売られていても、発注時はもっと高かったはず。

なぜそうなったかと言うと、古い刀が下がってしまったためです。それにつられて現代刀が下がった形です。

もっと分かりやすくなぜそうなったかと言うと、やっぱり業界が不正をやりすぎたせいですね。平気で偽物を売ったり、お客さんが嫌気がさしちゃったんです。

高価な刀を買って、売りに出したりする時に、嫌気が差してしまう。

500万が数十万になったら当然ですよね。

偽物だけは、私は排除したいんですが、後から後から出てきますね。

 

埴原:業界的にそういう風潮がありますよね。

 

杉田さん:ですから業界が襟を正さないと、刀剣不況からは抜け出せないのかなと。

せっかく愛刀家が増えつつあるのに、偽物を掴んだらいっぺんに嫌になってしまいますよね。

 

埴原:一事が万事ですから、一度そういう経験をすると誰も信じられなくなってしまいますよね。

 

杉田さん:まさに昭和五十年代のツケが回ってきているですね。

 

埴原:それは悲しい話ですね。

 

杉田さん:過去の協会の鑑定書は、信ぴょう性に疑問があるものがあります。今審査に出すと、再審査を偽物と言わず「現状」と言ったり、最近は昔の鑑定書は無効だと言ったり。その様な対応ではなく、訂正するという対応が必要だろうなと考えています。色々問題もあるんでしょうが、正して欲しいですね。

 

埴原:まさしく刀剣になぞらえて言えば「身から出た錆」ですから、仕方ないですよね。しっかりと対応してほしいです。なかなか難しいんでしょうね。色々(笑)

現状権威ある団体は一つだけですからね。

 

杉田さん:そうですね。だからこそ襟を正して、しっかりと取り組んで欲しいです。年代測定なんかも取り入れて欲しい。名古屋大学がとても進んでいて、前後25年の誤差で鑑定が可能です。そこまでやるべきだと思います。例えば無銘の場合、誰の作かを外しても多少は仕方ない。でも年代を外したら意味がない。

 

埴原:一人の人間の感覚で考えたら、50年も100年もしたら全然別もんですよね。

秘匿性の高さが邪魔しているんだと思います。そういう気質が、新しい方の参入障壁として大きいですね。

私は、稽古で使う側の魅力も発信していきたいと思います。それに伴い、現代刀匠の魅力も発信していければ良いですね。

今後の取り組みにおいても、ぜひお力をお貸しいただければ幸いです。

 

杉田さん:もちろんです。

こちらこそよろしくお願いします。

 

埴原:本日は長い時間ありがとうございました。

 

杉田さん:こちらこそありがとうございました。

 

【あとがき】

今回のインタビューは自身にも興味関心の高い刀剣についてであったため、大変楽しい時間となりました。とても深いお話が出来て、双方にとって楽しいインタビューになったと思います。

私が本当に信頼でき、安心してお勧めする事が出来る刀剣商の杉田さんです。

皆様も気軽に足を運んでみてください。